空の底、城の北
2023年11月5日日曜日15時 大阪天神橋筋六丁目駅東改札、もしくは2番出口地上に集合
徒歩で移動(20分強)開演。上演45分。終演後移動17時半ころ天神橋筋六丁目駅で解散
小雨決行、荒天時は代替場所で屋内公演
(1000円標準投げ銭方式)
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大阪城の東側、北側は、太平洋戦争のあと、かなり長い間廃墟だった。
戦中、この地には大阪砲兵工廠という東洋最大の兵器工場があり、戦争末期には米軍の空襲の最大の標的となっていた。戦後大阪の街が復興してからも、大阪城の近辺だけは巨大な廃墟としてのこされたままであった。
これは本当のはなしである。
大阪砲兵工廠の建物の多くは空襲により破壊されたが、「本館」と呼ばれた建物は1981年まで残っていた。
偽物の砂漠で二人は出会う
A: 砂漠みたいや
B: バクダンで出来た砂漠か?
A: 知ってるか?ほんまもんの砂漠には隕石が落ちてんねん
B: 隕石か?
A: そや隕石や。
B: 隕石は、ないやろな。
A: なんか落ちてたかて、それはがれきか人の骨や
B: そやな、全部、バクダンの、人間のしわざやわ
A: 砂漠の真似事や。
B: 真似事か。
A: ほんでもな。これから落ちてくるとも思うんや
B: 隕石か?
A: これから何百年も何千年もたつやろ、そんならひとつふたつ。いや、十や二十は隕石落ちて来るやろ。
B: 落ちてくるかもな
A: ほや、それはもう人間の争いごとと関係あれへん。なんや、宇宙の営みちゅうやつや。ほんでいつか、誰か、争いごとと関係ない誰かが、その隕石を拾うんや。
B: ロマンチストやな
A: ゆうとけ。
B: 骨な。
A: 何?
B: さっき「骨」ゆうたやんけ。
A: ゆうた。
B: 俺は人を焼いたよ。まだぷすぷすくすぶってた中で半分真っ黒く焼けて、ハエがたかっとった。
野犬狩りに失敗した二人はキタを眺める
B: 見せてみ
A: どやろか?
B: 噛んだあとには見えへんけどな
A: こわいわ
B: まあ、死ぬときは死ぬ
A: 水飲まれへんようになるんやろ
B: そう聞くわな。
A: あと、風もあかんらしいで。
B: 風?
A: 風も怖くてたまらんようになるんやて
B: 神経過敏か?
A: そうや。光も音も、外からの刺激が全部あかんようになって、叫びだすんや
B: わーっ!てか
A: そや。わーっ!てなんねん。
B: そうなったら殺したる。
A: え?
B: 治らんのやろ。苦しみだしたら、殺したる。
A: そうか。
B: 安心せい
A: 安心できるか
B: (遠くを見やる)明るいな。
A: あっちがキタか?
B: そうやわ。なんもなかったみたいにぴかぴかに輝いてるわ
A: 俺な。
B: なんや。
A: あのへんに女おるねん。
空の底で二人が語る
A: なあ。
B: なんや?
A: なんでこんなところに来たんや?
B: なんでって?
A: こんなとこ。普通の人間はこん。
B: 普通てなんやねん。
A: 普通は普通や。
B: ほな、まあ普通の理由やな。
A: またはぐらかす。
B: あんたはなんでや。なんでこんなとこ来たんや。
A: 質問してんのこっちやで。
B: そやな。砂漠ゆうてたよな。
A: うん。バクダンでできた砂漠や。
B: 砂漠ゆうたら空の底、みたいなもんやろ。
A: 空の底?
B: ほら、雲一つないあっおい青い空がひろがって、その底にあんのんが、砂で出来た砂漠やんか。
空のドームに覆われた世界の底や。
A: そうか、砂漠は底か。
B: 俺はな、くそみたいなこの世界の底を見たかったんや。
A: 世界の底?
B: こんな世界、間違うてるやないか。
A: こんな世界て?
B: やっと戦争終わった。もうしません。二度と戦争しません。ゆうてその舌の根も乾かんうちに、隣の国で戦争始まりました。戦争のおかげで復興しました。ゆうてもっと儲けとおなって、いつの間にや知らん、絶対せんかったはずの戦争に片足ツッコんで、気が付いたら半身(はんみ)突っ込んで。人の不幸で飯食うて。
A: うん。
B: ほんで、そんなんおかしいやろ言うたやつ、片っ端から、こんな砂漠に放り込んで。前の戦争でできた偽もんの砂漠に放り込んで、からっからのミミズみたいになるまで閉じ込めて。やから俺はここがこの世界の底や思うんよ。何も生み出さん奴。文句だけゆうやつ。今何していいかわからん奴。そんな奴ばっかり集まってくる世界の底やよ。
A: そうや。俺もそれや。
B: どれや
A: 何も生み出さんと今何していいかわからん奴。
犬の遠吠え
城の北で二人は幻をみる
B: 変わってしもうたな
A: うん、変わってしもうた。
B: なんか、夢見てたみたいな。
A: 夢な。
B: そう、 悪いことは全部夢で、ええことだけが現実ならな。
A: そう思うようにしてたんや。
B: そうか そうやろな。 あんたは。けど、俺は逆でな。
悪いことだけが現実で、ちょっとええことあったら夢みたいに思えてしまう。
A: あれから、あの夢は見るんか?
B: ずっと、見てるよ。
A: 本館は?
B: 見えてる。 ほら。
A: 砲兵工廠の工員たちも? アパッチも?
B: 徳川慶喜も、真田幸村までおるがな。
A: ええかげんなことを
B: すまんな。
A: えらい素直に謝るな。
B: 誰が誰かなんてわからへん。 とにかく、ここは夢で溢れすぎてる。
なんか、ほんま、
A: ワーッてなる?
B: ああ。
A: 大丈夫か?
B: 今のとこな。
悪いこと考えだしたら、夢に飲み込まれそうになる。